2025〜2026年度にかけて、介護報酬の引き上げや加算制度の見直しが進んでいます。
これにより、介護職員の賃金改善(賃金アップ)や現場でのICT導入促進が、これまで以上に重要なテーマとなっています。
しかし制度の変化が早い介護業界では、
- 「どこまで賃金が上がるのか分からない」
- 「ICT導入と報酬の関係がよく理解できない」
- 「加算を取っても現場に還元できているか不安」
といった声も多く聞かれます。
この記事では、最新の介護報酬引き上げ動向(2025〜2026年度)を整理するとともに、
ICT導入によって加算取得・収益アップ・賃金改善につなげるための実務的な考え方までをわかりやすく解説します。
臨時介護報酬改定と賃金アップに関する最新情報
介護報酬改定は、介護業界全体の収益構造や職員への賃金に直接影響を与える重要な制度です。
ここでは、2026年度に予定されている介護報酬改定の概要と背景、広がる対象範囲について整理します。
2026年度に予定されている臨時介護報酬改定の概要
2026年度に向けた介護報酬の特例的な改定では、一時的な報酬引き上げが国の方針として示されています。
これは、介護職員の賃金改善や事業所の運営環境を支える狙いがあります。
特に、直接的な賃金改善に結びつく部分が強化される点が注目されています。
介護報酬 +2.03% 引き上げが意味するもの
厚生労働省が示した改定案では、全体で約2.03%の報酬引き上げが見込まれています。
この数字は大きく感じられるかもしれませんが、
- 引き上げ分がどこまで職員に還元されるか
- 事業所の固定費・人件費とのバランス
を見極めることが重要です。
すべてが一律に賃金アップにつながるわけではありませんが、収益改善のチャンスとして制度を捉える視点が大事です。
また、訪問看護やケアマネジャーなども処遇改善加算の対象として、拡大が検討されている動きがあります。
この改定は2026年6月ごろに適用される予定となっています。
報酬自体の引き上げは、介護事業所の財政基盤を強化し、人材確保および賃金アップにつなげる狙いがあります。
介護職員の賃金アップはどこまで進むのか
介護報酬の引き上げや各種加算の見直しにより、「介護職員の賃金は本当に上がるのか?」という点に注目が集まっています。
ここでは、国が示している賃上げ方針と、実際に事業所がどう向き合う必要があるのかを整理します。
月額最大+19,000円の賃上げ方針とは
政府は介護職員の月額賃金を最大で約19,000円引き上げるという目標を示しています。
この賃上げは、処遇改善加算の改定により実現される計画で、全産業平均より低い介護・福祉分野の給与格差是正を目指しています。
賃金アップの背景と課題
厚生労働省の調査では、すでに介護職員の平均給与は前年より上昇傾向にあります。
しかし、一般産業との格差は依然として大きいと指摘されています。
また、介護職員の人材不足は重大な課題として捉えられており、賃上げ策は進んでいるものの、
- 労働環境の改善
- 介護業界全体の人手不足
- 地域格差や事業所ごとの対応力
といった課題が依然として残っています。
報酬引き上げ=必ず賃金アップとは限らない理由
注意すべきなのは、介護報酬が引き上げられても、必ずしも賃金が上がるとは限らないという点です。
理由としては、
- 物価高騰による経費増加
- 人材確保のための採用コスト
- 設備更新・ICT投資への充当
など、事業所の負担が同時に増えているからです。
理由のうちのひとつ、「人材確保のための採用コスト」は非常に大きな問題です。
紹介会社からの紹介で雇用した場合、年収の約30%を手数料として支払わなければなりません。
これを数字で考えると、年収450万円を希望する求職者の場合、135万円を紹介会社に支払わなければならないのです。
では、紹介会社に頼らないよう求人力を高めればいいじゃないか、となりますが、
介護求職者の多くが自分で職場を探さず、紹介会社に登録して探してもらうというのが実情です。
すると、事業所側は当たり前のことで経営を第一に考えますから、慎重な姿勢になります。
同時に、求職者も自分に合う職場を探さないわけですから、なかなか長く働ける事業所に巡り合うことができません。
キャリアを積み、さらにキャリアアップを目指し、新しい職場で勤めるというのは主流となりつつありますが、介護業界に関してはチームケアに重きを置くため、あまり当てはまりません。
介護業界においては、長く勤めながら役職や役割を担っていくことが、結果的に賃金改善につながりやすい傾向があります。
そのためにも、求職者自身が職場環境や働き方を見極め、自分に合った職場を選ぶことが重要だと言えるでしょう。
そして、事業所は職員が働きやすい職場づくりに努めつつ、加算取得など賃金アップへつながる取り組みを図ることが大切です。
ICT導入が評価される「生産性向上推進体制加算」とは
近年の介護報酬改定では、「ICTを活用して生産性を高めている事業所」を評価する仕組みが明確になってきました。
その代表例が生産性向上推進体制加算です。
ここでは、この加算が新設された背景と、具体的な内容を整理します。
生産性向上推進体制加算が新設された理由
介護業界では慢性的な人材不足が続いており、「人を増やす」だけでは現場を支えきれない状況になっています。
そこで国は、
- 業務のムダを減らす
- 職員一人ひとりの負担を軽くする
- 少ない人員でも質の高いケアを提供する
こうした取り組みを進めている事業所を報酬で評価する仕組みとして、生産性向上推進体制加算を新設しました。
つまりこの加算は、ICT導入=経営努力として正当に評価される加算だと言えます。
加算(Ⅰ)・(Ⅱ)の違いと単位数
生産性向上推進体制加算には、(Ⅰ)と(Ⅱ)の2区分があります。
大まかな違いとしては、
- (Ⅰ)
- より高度な生産性向上の取り組み
- データ活用や体制整備が進んでいる事業所向け
- 単位数が高い
- (Ⅱ)
- 基本的な取り組みを評価
- これからICT導入を進める事業所でも狙いやすい
となっています。
最初から(Ⅰ)を目指す必要はなく、まずは(Ⅱ)から取得し、段階的にレベルアップする考え方も現実的です。
委員会設置・データ提出などの算定要件
生産性向上推進体制加算の算定要件には、
- 生産性向上に関する委員会の設置
- ICT活用や業務改善の取り組み
- 国へのデータ提出(LIFE等)
といった要素が含まれています。
ここで重要なのは、「高価なICTを導入しているか」ではなく、「体制として取り組んでいるか」が評価される点です。
そのため、
- 小規模事業所
- これからICT導入を検討する事業所
でも、十分に取得を目指すことができます。
どのようなICT導入が加算取得につながるのか
生産性向上推進体制加算や処遇改善加算では、「ICTを導入していること」そのものよりも、「業務改善につながっているか」が重視されます。
ここでは、実際に評価されやすいICT導入の例を整理します。
見守りセンサー・介護ロボットの活用
見守りセンサーや介護ロボットは、夜間対応や巡視業務の負担軽減につながるICTとして評価されやすい分野です。
具体的には、
- ベッド上の離床検知
- 転倒・転落リスクの把握
- 夜間巡視回数の削減
などが挙げられます。
これらは、
- 職員の身体的・精神的負担の軽減
- 少人数体制でも安全を確保できる
といった点で、生産性向上の取り組みとして位置づけやすくなります。
インカム・チャット等による情報共有ICT
インカムやチャットツールは、人を探す時間を減らすという点で非常に効果的です。
- 緊急時の即時連絡
- フロア間の情報共有
- 新人職員のフォロー
など、日常業務に直結した改善効果があります。
高価なシステムでなくても、
- 業務時間が短縮された
- 情報伝達ミスが減った
といった成果を説明できれば、加算要件を満たす取り組みとして評価されやすいのが特徴です。
介護記録ソフト・タブレット導入の位置づけ
介護記録ソフトやタブレット導入は、記録業務の効率化・標準化という観点で重要なICTです。
- 手書き記録の削減
- 入力時間の短縮
- 情報共有のスピード向上
といった効果が期待できます。
特に、
- インカムによる音声入力
- 記録データの活用
などと組み合わせることで、生産性向上の取り組みとして説明しやすくなります。
ICT導入が「収益アップ」につながる仕組み
ICT導入は「コストがかかるもの」というイメージを持たれがちですが、制度を正しく理解し、加算と結びつけて活用することで、中長期的な収益アップにつなげることが可能です。
ここでは、その仕組みを整理します。
生産性向上加算による報酬の上積み
ICT導入が直接的に評価される代表例が、生産性向上推進体制加算です。
この加算を取得することで、
- 基本報酬に上乗せされる
- 利用者数に応じて継続的な収入になる
という効果が生まれます。
単発の補助金とは異なり、算定し続ける限り収益として積み上がる点が大きな特徴です。
処遇改善加算を取得しやすくなる構造
ICT導入によって、
- 業務負担が軽減される
- 職場環境要件を満たしやすくなる
- 生産性向上の取り組みとして説明できる
といった状態が整うと、処遇改善加算を安定的に取得しやすくなります。
結果として、
- 加算取得 → 収入増
- 収入増 → 賃金改善に回せる余力が生まれる
という好循環が生まれます。
加算を積み重ねることで生まれる収益余力
ICT導入による収益アップは、一つの加算だけで完結するものではありません。
- 生産性向上推進体制加算
- 処遇改善加算
これらを重ねて取得することで、
- ICT導入コストを吸収できる
- 賃金アップを継続しやすくなる
- 経営の安定につながる
といった効果が期待できます。
重要なのは、「ICT導入=経費」ではなく、「収益構造の一部」として捉える視点です。
ICT導入は職員配置加算の緩和につながる面もありますが、職員1人分の人件費を補えるほどではないため、人件費そのものを削減するのは難しいでしょう。
また、加算取得により収益が増えて、職員の賃金がアップしたとしても、導入や維持コストによる支出が収益を上回る場合、一時的にはよくても、結果的に経営を苦しめることになります。
人件費に関してはコントロールが難しいですが、事業費、事務費などのコストをいかに抑えて収益を増やすかが、ICT導入をするうえでは最重要となります。
ICT導入と賃金アップを結びつけるために重要な視点
ICT導入や加算取得は、それ自体がゴールではありません。
本当に重要なのは、それらをどのように賃金改善へつなげるかです。
ここでは、制度を「取って終わり」にしないための考え方を整理します。
加算を「取るだけ」で終わらせない
加算制度でよくある失敗が、「算定すること自体が目的化してしまう」ことです。
- 加算は取れている
- 書類も整っている
- しかし現場は忙しいまま
この状態では、職員は「制度の恩恵」を実感できません。
加算はあくまで手段であり、現場改善・賃金改善につなげて初めて意味を持つという視点が欠かせません。
賃金改善にどう反映させるかの設計
ICT導入や加算取得を賃金アップにつなげるには、事前の設計が非常に重要です。
例えば、
- 加算収入のうち、どの程度を賃金に回すのか
- 基本給・手当・一時金のどれに反映するのか
- 常勤・非常勤、職種ごとの配分をどうするのか
これらを曖昧にしたまま進めると、「思ったより上がらない」という不満につながります。
数字とルールを見える化することが、納得感のある賃金改善につながります。
現場の負担軽減と処遇改善を両立させる考え方
ICT導入の本来の価値は、「負担を減らす」ことと「評価される」ことを同時に実現できる点にあります。
- 業務が効率化される
- 残業が減る
- 心理的な負担が軽くなる
そのうえで、
- 加算が取れる
- 収益が安定する
- 賃金改善が可能になる
この流れができて初めて、ICT導入と賃金アップが結びついた状態と言えます。
ICT導入がもたらす現場への効果
ICT導入は、加算取得や収益面だけでなく、介護現場そのものにも大きな変化をもたらします。
ここでは、実際に多くの事業所で実感されている代表的な効果を整理します。
業務効率化・生産性向上
ICT導入による最も分かりやすい効果が、業務効率化と生産性の向上です。
例えば、
- 介護記録の電子化による記録時間の短縮
- インカムやチャットによる情報共有の迅速化
- 見守りセンサーによる巡視業務の削減
これらは一つひとつは小さな改善でも、積み重なることで1日の業務負担を大きく軽減します。
結果として、
- 残業時間の削減
- 少ない人員でも業務を回せる体制
につながり、生産性向上として評価されます。
職員の働きやすさと定着率向上
ICT導入は、「働きやすさ」の向上にも直結します。
- 人を探し回らなくてよい
- 困ったときにすぐ相談できる
- 記録に追われる時間が減る
こうした変化は、職員の精神的な負担を軽くし、離職防止・定着率向上につながります。
賃金アップと合わせて、
- 働きやすい環境
- 納得できる処遇
を整えることが、人材確保の面でも大きな意味を持ちます。
サービスの質と安全性の確保
ICTは、利用者の安全確保やサービス品質の向上にも寄与します。
- 異変の早期発見
- 情報共有漏れの防止
- 記録の正確性向上
これにより、
- 事故リスクの低減
- 家族への説明のしやすさ
- ケアの一貫性確保
といった効果が期待できます。
ICT導入は、現場を楽にするだけでなく、ケアの質を守るための投資でもあります。
ICT導入と加算取得を進める際の注意点
介護報酬引き上げや加算制度を背景に、ICT導入を検討する事業所は増えています。
しかし、進め方を誤ると「コストだけが増えた」「現場に定着しない」といった結果になりかねません。
ここでは、導入・加算取得を進めるうえで特に注意したいポイントを整理します。
制度ありきでICTを導入しない
よくある失敗が、「加算が取れるから」「要件に書いてあるから」という理由だけでICTを導入してしまうことです。
制度は数年単位で見直されますが、ICTは一度導入すると簡単には入れ替えられません。
- 今の課題解決につながるか
- 現場の業務に本当に必要か
- 制度が変わっても使い続けられるか
こうした視点を持たずに導入すると、制度が終わった後に“使われないICT”が残るリスクがあります。
現場に合わないICTは定着しない
ICT導入の成否を分ける最大の要因は、現場に合っているかどうかです。
- 操作が複雑
- 業務フローに合わない
- ITが苦手な職員が使いにくい
こうしたICTは、どれだけ制度上評価されても定着しません。
導入前から、
- 実際の業務を想定する
- 現場職員の意見を聞く
- 小さく試してみる
といったプロセスを踏むことが重要です。
導入・運用・見直しまでを見据える
ICT導入は、導入して終わりではありません。
- 使われているか
- 業務負担は本当に減っているか
- 加算要件を満たし続けられているか
定期的に振り返り、必要に応じて運用を見直すことが求められます。
この「見直し」の視点があることで、
- 加算の安定算定
- 現場改善の継続
- 投資効果の最大化
につながります。
介護報酬改定とICT導入に関するよくある質問
介護報酬改定やICT導入については、「制度の流れとしてどうなるのか」「本当に意味があるのか」といった疑問を多くいただきます。
ここでは、介護事業者・管理者の方から特によくある質問を整理します。
ICTを入れないと今後加算は取れない?
結論から言うと、「すべての加算がICT必須になる」わけではありません。
ただし近年の傾向として、
- 生産性向上
- 業務効率化
- 働きやすい職場環境
といった要素を評価する加算が増えており、ICT導入が事実上の前提条件になりつつあるのは確かです。
今すぐ導入しないと加算が取れない、というよりも、中長期的にはICTを使っている事業所の方が選択肢が広がると考えておくとよいでしょう。
小規模事業所でも生産性向上加算は可能?
はい、小規模事業所でも十分に可能です。
生産性向上推進体制加算では、
- 高額なシステム導入
- 大規模な組織体制
が必須というわけではありません。
- 業務改善に取り組んでいるか
- ICTを活用しようとしているか
- 委員会設置やデータ提出などの体制が整っているか
といった点が評価されます。
むしろ、小規模事業所の方が改善効果を説明しやすいケースも少なくありません。
賃金アップに本当に結びつくの?
この質問は非常に多いですが、答えは「結びつけられるかどうかは事業所次第」です。
- 加算を取得する
- ICTで業務負担を減らす
- その成果を賃金改善に反映する
この一連の流れを意識的に設計している事業所では、実際に賃金アップや処遇改善につながっています。
逆に、
- 加算は取っているが使い道が曖昧
- ICTは入れたが現場が楽になっていない
という状態では、賃金アップの実感は生まれにくくなります。
介護報酬引き上げの流れを「現場の改善」に活かそう
2025〜2026年にかけた介護報酬改定や加算制度の見直しは、単なる制度変更ではありません。
捉え方次第で、現場環境の改善・ICT導入・賃金アップを同時に進めるチャンスにもなります。
最後に、これからの介護経営にとって大切な視点を整理します。
制度改定はチャンスでもある
介護報酬引き上げや加算制度の拡充は、「対応が大変」「制度が複雑」という側面もあります。
一方で、
- ICT導入が評価される
- 生産性向上が報酬につながる
- 賃金改善を進めやすくなる
という点では、これまでよりも前向きな制度設計になってきているとも言えます。
制度改定を「仕方なく対応するもの」ではなく、経営改善のチャンスとして捉えられるかどうかが重要です。
ICT導入を「経営」と「現場」両面で考える
ICT導入は、経営側だけ、現場だけの視点ではうまくいきません。
- 経営視点:
- 加算取得
- 収益構造の改善
- 人材確保・定着
- 現場視点:
- 業務負担の軽減
- 働きやすさ
- ケアの質・安全性
この両方を満たすICTこそが、本当に意味のある導入です。
制度に合わせて無理に現場を変えるのではなく、現場改善を制度が後押しする形を目指しましょう。
自事業所に合ったICTを一緒に検討する
ICT導入には、
- 何から始めるべきか
- 本当に必要なICTは何か
- 現場にどう説明すればよいか
といった悩みがつきものです。
私自身、ICT導入に携わっている立場から、現場につながるICT導入を大切にしています。
お悩みの方は、ぜひ一度ご相談ください。


